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| 御利益をもらえる渓 | |||||||||||||||||
| 「今年も、まずはこの川で御利益を貰いますか」 電話の主は福田さんだった。 福田さんは、釣友一の釣り名人で春はヤマメ・イワナ、夏はアユ、秋はまたヤマメ・イワナと、3シーズンを川で遊ぶ釣り師なのだ。 「初釣りだからさぁ、霊験あらたかなあの川に行こうよ。」 そんなことを話していた福田さんだったが、当日仕事で釣行を断念することになってしまった。さぞかし残念だったに違いない。今シーズンの釣果を占う初釣りがコケてしまったのだから。 |
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| 今年はどんな御利益がもらえるのか | |||||||||||||||||
酒匂川水系畑沢。 この渓は不思議な渓なのだ。毎年面白い体験できる。 先週はヤマメが釣れたが、今週はアマゴが釣れたり、洒落で道路から竿を出したら26センチのアマゴが釣れてしまったり、青いゲジゲジを見た事もあった。釣友達も面白い体験をいろいろしている。 そんな渓だから、解禁当初には必ず釣行に出向き、面白い体験(御利益)を貰う。 面白い体験(御利益)を貰うことができれば、今シーズンの渓流釣りは安泰というわけだ。 この川は我々にとって、霊験あらたかな渓なのである。 |
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| 渓流釣り師は、禁漁中悶々とした日々をおくる。 「あの淵で取り逃がした大イワナ、今度遇ったら必ず回収してやる」などと息巻いてみたところで釣りに行けない現実に悲しくなったり、イライラしたり、はたまた虚しくなったり。そんな気分を紛らわすために押し入れから釣り道具を引っ張り出し、手入れの真似事などをしだすが、あの時のヤマメにイトを切られたことを思い出し、「チクショウ、アイツめ!」などと独り言をもらし、嫁から「バッカみたい」などと卑下されて、またまた虚しくなったり・・・・・・。 そんな毎日をおくるのである。 今年の初釣りは単独釣行になってしまった。 前日の夜に車を走らせ、まだ暗いうちに目的の渓に着いた。 瀬音が聞こえる道路脇に車を止め、渓の様子を渓水の流れる音から判断する。水量は申し分なさそうだ。 まだ闇の支配下にあるこの場所で瀬音をBGMにして仮眠をとる。 |
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| 渓はまだ冬の様相 | |||||||||||||||||
山の輪郭がくっきりと現れたころ、私は釣り支度を始めた。 無風だが、肌寒い。山の土肌は、まだ黒々とした冬の色をしているが、渓脇のドウダンツツジは芽吹き始めている。春はすぐそこまで来ているのだ。 仕掛けを繋ぎ、堰堤の前に立つ。「渓魚は深場を越冬場とする」この言葉が本当ならば、この渓の越冬場はこの堰堤しかない。 然程大きくない堰堤だが、堰堤下が淵になっている。大きな底石もある。渓魚は、そこに身を寄せているに違いない。 山の冷気に震えながら、竿を振る。 底を流れる仕掛けは、あの沈石の脇を通って緩流帯に定位しているヤマメの鼻面をコチョコチョとくすぐり、たまらず食いつくはずである。この淵でまずは一尾。との願いも虚しく目印はピクリと動かない。何度か仕掛けを流すが、結果は同じだった。 足元に流れる渓水は冷たく、ウェーダーを突き抜けて容赦なく襲いかかってくる。手袋の中の指先の感覚も次第に薄れてきた。 早く日差しがほしい。 |
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| 落ち込みの石裏を丹念に探る | |||||||||||||||||
もう、かれこれ4時間近くも竿を出しているが、釣れて来るのは、リリースサイズばかリで一尾もキープできるサイズが釣れない、という貧果である。 そろそろ日も射し出し、気温が上がり、水温も少々上がった。渓魚の活性も上がるはずだ。 この川は大きな渓ではない。淵と落ち込みの連続した渓である。淵でダメだった私は、落ち込みの石裏を丹念に丹念に探ることにした。 小さな落ち込みに仕掛けを入れる。目印には何の変化もない。暫くして仕掛けを少し上げてみると、「グイッ」ときた。今までの引きとは違う。間違いなくキープできるサイズだ。 「まさか、あんな所に居るなんて」誰もが見落としそうな小さな落ち込みである。 石裏に隠れようとするヤツを無理矢理引っ張り出し、一気にケリをつけてやろうと、力任せに引っ張った。水面からヤツの横腹が現れた。瞬間、私の竿が空を切った。 ヤマメだった。 ヤツめ、ハリを外してまんまと逃げたのである。「チクショウ!」私は小さく叫んだ。 釣り師のいけないところは、取り逃がした魚を何とかして回収しようとするところである。 罠を見破って逃げたヤマメがすぐにまた同じ罠に引掛かるだろうか。ヤマメだってバカじゃない。「そう何度も引掛かってたまるか、ヘボ釣り師め!」こう、思っているに違いないのだ。 それが解っていながら、性懲りも無く同じポイントに投餌してしまうのは、「もしかしたら」という有りもしない可能性にかけてしまうからだ。これは釣り師のサガなのである。 そして、性懲りも無い者がここにもいた。ヤツめ、また引掛かったのだ。 今度は逃がさない。落ち着いて取り込んだ。 24センチのヤマメ。 石の上に引きずり上げられたヤマメは、観念したのか口を閉じたまま微動だにしない。 ヘボな釣り師にドジなヤマメ、お互い性懲りもないバカ同士。親近感すら湧いてくる。 「警戒心の欠けらもないなまったく、ドジなヤマメだなぁ。」私はこうつぶやき、ヤマメを流れに返してやった。 慌てて逃げていったヤマメを見送って、「フゥ」と一息つく。私のお腹が、思い出した様に「グウ」となった。 河原に座り、持参したオニギリを食べる。暖かい日差しを受けて、私の手足は次第に回復していった。 少し風が出てきたようだ。空を見上げると、西の方から灰色の雲がどんどん迫ってくるのが見える。私は仕掛けを仕舞い、渓を上がった。 2001年3月上旬 |
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| 空は快晴 | |||||||||||||||||
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| ヤマメ24センチ | |||||||||||||||||
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