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早春の群馬路榛名を釣る
吾妻川水系大谷沢川
「群馬県行ってきたよ。毎年この時期は成績が悪いけど今年は結構出たね」
孝井さんからこんな電話をもらった。
孝井さんは、自宅が関越道を利用するのにとても便利な場所に位置することもあってか、群馬県の渓流をホームグラウンドにしている。
本流よりも支流が好き、ヤブ沢はもっと好き。と言う孝井さんだけあって、釣法はちょうちん釣りに徹する。
昨今の渓流釣りは本流やスレッカラシをターゲットにした、長くてやわらかい竿、長くて細い仕掛け、そして小さいハリやオモリを巧みに操る釣り人が多くなった。そんな中、なぜ孝井さんはヤブ沢とちょうちん釣りにこだわるのだろうか?
私なりに考えてみた。
・本流は釣り人が多く、思うようにポイントを探れない。
・長い竿と仕掛けを操るのが難しい。
・ヤブ沢は釣り人が少なく(一人もいない場合もある)、沢を独占できる。
・沢の規模からは、想像もつかないような大きな渓魚が釣れたりする。(意外性がある。)
・本流より支流のほうが森林に囲まれた場所が多く、より自然を感じられる。
・本流より支流のほうが渓魚がスレていない分、釣りやすい。
・ナドナド。
こんな回答を想像しつつ、孝井さんに『なぜ?』と質問してみた。
「足が短くて本流に立ち込めないんだ」返ってきた返答がこれだった。
ナルホド、確かにお世辞にも背は高いとはいえない。足の長さも知れたモノ。逆に、背が低い分、誰もが敬遠するような覆い被さる木の枝やヤブを容易にすり抜けられるという利点もあるわけだ。自分の欠点(かどうかは、わからないが)を逆手にとって、自分なりに渓流釣りを堪能しているというわけだ。


「今度の休みに榛名山辺りに行ってみようと思うんだけど」
私は孝井さんに同行することにした。
榛名山は標高1391m、山裾に榛名湖を要す榛名富士を中心に、掃部ヶ岳、鬢櫛山、烏帽子岳、蛇ヶ岳、臥牛山、相馬山、三ツ峰山、天目山、氷室山等、方々を自然豊かな山々に囲まれ、ハイキングや氷上のわかさぎ釣りと、四季を問わずレジャーが楽しめる。また、湧水も豊富で付近の渓流の水量も年間を通して安定している。


大谷沢川の流れ。


高崎I.Cを出た我々は、ドライブインの駐車場で仮眠をとった。
春先とはいえ、夜はまだ肌寒い。暖房を利かせた車中で寝袋にくるまって眠った。
辺りが薄明るくなった頃、眠たい目を擦りながら目的地まで車を走らせた。アスファルトの切れ目からタンポポやナズナが、日の光を十分に受けようと地面に葉っぱを張り付かせている。
春まだ浅い群馬路の田園風景を車が走る。目指すは、榛名山の北側だ。


入渓したのは、吾妻川水系大谷沢川。
下流域は全く魚信はなかった。
少しピッチを速めて遡るとポツリ、ポツリと小型のヤマメが懸かるようになった。
台風の影響か、ビニールハウスの残骸が渓を覆っている部分に出た。上流に田んぼや畑がある
里川にはよくある事と自分に言い聞かせ、先を急ぐ。
しかし、その先に出ても魚影は少しも濃くならない。
昼までまだ時間はあるが、三つ目の堰堤まで詰めて、川を上がった。
「台風の影響があれほどとはねぇ」
「全くだね。ビニールハウスがなければ、もう少し釣れたのにな」
二人は、負け惜しみに石コロを蹴飛ばしながら林道をトボトボ歩いた。


釣果ゼロ!時期がまだ早いのか?
鉄砲打ちのオジサン


「釣れたかぁ」突然後ろから声をかけられ、驚いて振り返ると、オレンジ色のチャンチャンコを着たオジサンが一人。よく見ると、肩から散弾銃を下げている。こんな山奥でカツアゲか、さては追剥の類だな。
さらによく見ると、トランシーバーを持っている。仲間を呼んで集団で襲う気か。
「丁度、イノシシが解禁になってよー」聞けば、地元の猟友会のオジサンらしい。イノシシ狩りが解禁になり、仲間とイノシシを追っている最中だったのだ。
「追い込まれたイノシシが襲ってくると、あぶねぇから早めに離れたほうがエエゾ」ゾッとする事を言い残してオジサンは山へ入っていった。
「山は都会より物騒だねぇ」
「クマにイノシシ、それと追剥」
負け惜しみと、釣れなかった腹癒せを山にぶつけるように、悪口を言ってみせた。何とも、みっともない光景だったに違いない。


林道脇の現在は使用されていない橋。
吾妻川水系常満沢川
大谷沢川を諦め、次の釣り場に期待をかける。
林道を里へ下る。民家の庭先にはコブシやヤマボウシの白い花や、ウメのピンクの花、ヤマブキの黄色い花などが咲き乱れ、奥山と里の春の訪れの違いに気づかされた。


道路脇にその川は流れている。程なく堰堤が現れ、川は道路から直角に流れを変え、山に吸い込まれるように遠ざかっていく。
我々は堰堤上から入渓した。
堰堤のすぐ上は水がチョロチョロと流れる程度たが、小さな魚が走るのが見えた。
いる!流れは細いが、魚はいる。ちょっとしたポイントがあれば、そこに20センチくらいのがいるはずだ。
200メートル程ピッチを上げて歩いた。小さなナメ滝が現れ、滝下が淵になっている。
そこで竿を出すが、アタリは無かった。
滝下を諦め、滝を登り、先を急ぐ。
川は一枚岩で、とても魚が居着くようなポイントはない。さらに先を急ぐ。
川幅はどんどん細くなり、崖だった両岸がブッシュになった。さらに進むと、辺りが開け、田んぼのあぜ道に出た。源流が近いとばかり思って歩いていたが、まだまだ中流域だったのだ。上流の方から入れる道が何処かにあるのだろう。
「この川幅じゃ釣りにならないね」私が言った。
「こんなに狭くちゃや釣趣もわかないよ」孝井さんは短い足で川を跨いでみせた。
田んぼの土手には、子供の握りこぶしほどもあるフキノトウが群生していて、それらが春遅しと、黄色い花を広げている。
すでに昼を回っている。
我々は竿を投げ出し、フキノトウを夢中で採っていた。


2001年3月下旬


ナメ滝。魚は留守。

春の訪れ、フキノトウこのくらいがおいしい。
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