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桜吹雪とウグイスとアマゴ1
狩野川水系猫越川
「この辺の川はね、特別解禁区になっていて、5月19日までしかアマゴが釣れないんだ」
岡嶋さんはこう言って、まだ薄暗い山の道路脇に車を止た。
「あと30分くらいで明るくなるよ」深深と降る雨、せせらぎだけが山に響いていた。
我々は車の中で明るくなるのを待った。


天城山地の八丁池を源頭に流れ下る狩野川は、下田街道に沿って北上した後、大見川、修善寺川等の支流を合流し、田方平野を潤す。更に北に向かって蛇行しながら流路を西北に転じ、来光川、大場川の諸支流を合わせ、狩野川最大の支流である黄瀬川と合流した後、沼津市街を経て駿河湾に注ぎ込む。太平洋に注ぐ、唯一北上する川でもある。
水源地天城連山は雨の多い地域でもあり、更に柿田川に代表される富士山からの伏流水を合わせた、流量の豊富なその水は清流として知られ、天城湯ヶ島町や中伊豆では、ワサビ栽培が盛んだ。また、鮎の宝庫で友釣りの発祥地でもある。
狩野川流域は、国内有数の名山を有する富士・箱根・伊豆国立公園に囲まれていることから風光明媚な土地柄を示している。流域には温泉地が点在し、観光客も多数訪れる。
ところで、狩野川名称の由来には諸説あるようなので、ここで紹介しておく。
地名の軽野から変化したと考えられる軽野説。焼畑農業のことを「カノ」と呼ぶことから付けられたと考えられる火野説。江戸幕府の資金源の金山があったことから、それが変化してつけられた金川説など。日本書紀(8世紀)によれば、伊豆の国で船を造り、その名を「枯野」と称したとあり、それが軽野(カルヌ)からカヌに変わったという説が最も一般的だそうだ。


湯ヶ島温泉で狩野川に流入する川が猫越川だ。
春雨に煙る猫越川は、心なしか増水気味。
先ずは、餌の川虫採りからスタート。ヒラタ、キンパク、クロカワ、石をひっくり返せば、いくらでも採れる。川虫の宝庫だ。水が温かいということだろうか。
一般に「雨が降ると渓魚の警戒心が薄れて、釣り易くなる」という説がある。
岡嶋さんが昨年ここで釣りをした時、「23センチ以上のアマゴしか出なかった」という有力な情報もある。
今日はイケル!と勇んで竿を振るも、空振り。岡嶋さんと私の思惑に反して、釣れてくるのはハヤとチビアマゴばかり。釣っては放し、釣っては放しを繰り返して、なんと10時間も川にいた。
渓流に覆い被さる様に桜が咲いていた。盛りは過ぎてしまったが、まだまだ観るには十分だ。
今日の雨如何では、散ってしまうかもしれない。それも致し方ないことだ。花が散らなければ葉が出ない。葉が出なければ光合成ができない。光合成ができなければ、枯れ行くのみだ。
来年また見事な花を咲かせるために必要な行為なのだ。そんなことを思っていたら、漁協のおじさんが遊漁証のチェックにやってきた。
岡嶋さんは年券をもっているので問題ない。私は釣り場に来る途中、狩野川のホトリにある漁協組合の事務所で、夜間もやっている自動券売機(その名も、つりけんくん)で遊漁証を買っておいたので、それを見せた。
この「つりけんくん」は便利だ。平日仕事をしている我々は、休みの週末を夜駆けで釣り場に向かうため、券売所が開いていないケースが多々あるのだ。どうしても、現場売りのチョット高い遊漁証に頼らざるを得ない。夜明けとともに釣りを開始する我々にとっては、避けられない出費だ。券売機があれば、それを利用すれば余計な出費をしなくて済むのだが。全国の漁協組合の方々、どうでしょう。


話しをもどして、猫越川。
減滅だ。疲れた顔を隠せない私と岡嶋さんは、トボトボ車まで戻り、着替えもソコソコに猫越川を後にした。
増水中の川に雨が降ると、釣りには向かないようだ。


春雨の猫越川
猫越川の桜
民宿 のなか
岡嶋さんが南伊豆で仕事をしていた時に、ずっと宿泊していた民宿が「のなか」だ。
下田と弓ヶ浜の間にあり、海はすぐそこ。海釣りを楽しむ連中が集っていた。


猫越川を出発した我々は、湯ヶ島町の遊漁証を扱っている畳屋に立ち寄った。明日の遊漁証を買い求めるためだ。お店は閉まっていたが、無理を言って、遊漁証を売ってもらった。
それから、民宿へ向かうべく車を走らせた。
下田街道をひた走り、淨蓮の滝、天城峠、九十九折、七滝(ななだる)温泉、河津温泉郷、名所に立ち寄る余裕もなく、天城越え。民宿は遠いのだ。
東伊豆道路に入り、左手に太平洋を見ながらの運転になる。下田駅付近が渋滞していたが、他は難なく通過でき、1時間30分で民宿に着いた。
途中、岡嶋さんは酒屋で「宝山」なる焼酎を一升瓶で3本も買った。ウマイらしい。私はビール党なので焼酎の美味さは判らないが、ナカナカ売っていない代物らしいのだ。
民宿では、ご主人が我々の到着を首を長くして待っていてくれた。ご主人は、岡嶋さんを見るなり開口一番「約束を守ってくれたね」と大喜び。岡嶋さんが南伊豆の仕事を引き上げる時に、「また来ます」と言って帰ったので、「約束を守って……」と言ったようだが、毎日色々なお客さんと接しているのに、ご主人もよく覚えていたものだと、関心した。
早々にお風呂に入り、疲れた体を癒す。
お風呂から上がったらビールだ。旅の無事を祈って乾杯。
すぐに食事となった。
海の幸に舌鼓を打ち、釣り談義。楽しい一時を過ごせた。
これも、釣りの醍醐味の一つだよね。


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